『  音  ― (1) ―  』

 

 

 

   ♪♪ ♪ 〜〜〜〜  ♪♪ 〜〜〜

 

きっちりと整頓された部屋に 低く口笛のメロディが流れている。

時折 ハナウタ まで混じっているのは  ― 驚天動地 なことで・・・

同居人がいたなら 何事か?? と 駆け寄ってくるかもしれない。

 

     ふんふん ふんふんふん  ふ〜〜〜ん♪

 

アルベルトはすこし逡巡していたが

クローゼットから革ジャンを取りだしてきた。

「 ・・・ ふん  あっちはもう春 か?

 まあ厚手のダウンはいらんな  コレでいいか ・・・

 ああ 荷物が少なくて助かる 」

ぽ〜〜ん ・・・ 弛めに詰めたスーツ・ケースに

彼は替えの革手袋を一組 放り込んだ。

「 ふん  ・・・ まずはシブヤとギンザだな

 俺にはやはり紙の楽譜がいい ―  買いこむぞ。

 そうだ あの古本屋街も歩いてみるか ・・・ ずっと興味があったんだ

 お〜〜っと 例のジャガイモをリクエストしておくか 

サイド・ボードの上に置いたスマホに手を伸ばした 途端に

 

    ヴヴヴヴヴ −−−−  ヴヴヴヴ 〜〜〜〜

 

「 ? なんだ? メールか? 珍しいな ・・・ 誰だ ・・・

 ! なんでメールなんだ フランソワーズ !! 」

唇をますますへの字にして メール画面を開く。

「 なんでわざわざ・・・ ったく ・・・ はあ?? 」

 

   

「 はあ〜い アルベルト〜〜 お仕事ですよ♪

 こっちにいる間 ウチの朝クラス と ジュニアAクラス の

 ピアノ よろしく☆ マダムが待ってるわって♪ 

 代理で 短期雇用契約書にサインしておいたからね〜〜 ♪

 あと ・・・ コンテ・クラスで リズム担当できる人 しらない? 」

メール画面には賑やかにハートやらVサインやら☆やらが 飛び交っている。

 

 

「 はあ???  俺は休暇なんだ! 仕事は取らんぞ ! 」

彼は憤然として画面を閉じようとしたが  後半のコトバに目が行った。

「 !!  こ こ 雇用契約書 だとぉ???  ・・・サインした?? 

 ・・・ ああ あのマダムの笑顔が ・・・ 」」

 

     はああ〜〜〜〜  ・・・

 

故郷でも名をあげつつある人気ピアニスト氏は アタマを抱え

椅子に座り込んだ。

 

「 冗談じゃないぜ  朝と夕方に弾くってことは

 昼間はほぼ拘束じゃね〜か !  ったく〜〜〜 

きっぱり断ればいいことだが ― そんなコトはあの金髪フランス娘には

まったく通じないことを 彼は今までの経験でイヤといほど知らされていた。

 

    「 ― でも 弾いてくれるでしょう? 」

 

論理的に そして 丁寧に解りやすく時間を掛けて説明しても

最後は いつもこの言葉と笑顔で全てをひっくり返されてしまうのだ。

 

「 ・・・ ったく〜〜〜〜 

 

かつて 急な代理ピアニストとして フランソワーズの所属してる

バレエ・カンパニーでレッスン・ピアニストを務めたことがあった。

 

  ― あの時も   突然携帯が鳴ったのだ。

 

所要で来日し 朝、バレエ団のレッスンにゆく彼女を送って

共に都心に出た。  

彼自身は所属する楽団がらみの交渉事もなんとか成立し

やっとオフになった朝なので アルベルトはウキウキしていた。

 

「 ふうん ・・・ なかなか緑が多いな この地域は。 

 ああ ここがあの有名な ―  ほう・・・? 」

彼女を送り届けた後 さて 楽譜屋巡りをするか・・・と

路線図を眺めていたときだった。

 

     ヴヴヴヴヴ −−−− !

 

「 ? なんだ?  ・・・ フランソワーズ?

 忘れ物でもしたのか 」

かなりの仏頂面でメール画面を開けば

 

    アルベルト!!!  すぐ 来て!  3

 

「 !? な なんだ ??  緊急なら脳波通信が届く距離だぞ?

 いや のっぴきならない事情でもあるのか? 」

 

     カッ !!  カツカツカツ −−−!

 

彼は踵を返し ニンゲン的に見えるぎりぎり限界の速度で

来た道を 引き返した  ― 齢の離れた妹 のために ・・・ !

 

「 あ〜〜〜 きた〜〜〜  ねえ はやく はやく〜〜〜 」

「 !  フランソワーズ !! どうし ・・・ た ・・・・? 」

果たして彼の < 妹 > は ニットを羽織りバレエ団の玄関で

ぴんぴん 跳びつつ・・ 待っていた。

「 ほらほら〜〜 もう時間なの! 」

「 ??? 

「 だから〜〜 弾いて。 朝クラスのピアニストさんがね

 急病で来れなくて。 代わりのヒト、いないのよ〜〜 」

「 ・・・ は? 」

「 こっちよ〜〜   あ マダム〜〜〜 来ましたァ〜〜 」

「 ?? な な なんなんだ〜〜〜 」

 

< 妹 > に拉致され引っ張って行かれたのは ― 広いスタジオ。

 

床で潰れカエルみたいに寝そべったり 信じられない角度で脚を上げたり 

・・・ しているダンサー達が 言葉はないがあつ〜〜い視線を向けてきた。

 

「 あら。 フランソワーズ。 その方が従兄さん? 」

「 マダム〜  え  あ はい!  アルベルト・ハインリヒ です!

 ね 弾いてよ、朝のクラス。 いいわよね? わかるわよね?

 ほら 座って 座って〜〜〜  」

「 ・・・・ おい 〜〜〜 」

「 初めまして  ヘル・アルベルト? 

なんだか貫録のある初老の婦人が にこやかに挨拶をしてきた。

 

      ん・・・・?

      ああ このバアさんが このカンパニーの主宰者か

 

「 あ い いや ( ほう なかなか堂に入った発音じゃねえか ) 」

「 ごめんなさい 私 ドイツ語はこれしかできないのよ。

 イングリッシュ or フレンチ? 

「 ―  日本語で結構ですよ マダム 

「 あら そう? 日本語 お上手ね 」

「 ・・・ あ〜〜 フランソワーズの練習に付き合ってますから

 だいたい流れは知ってますが。   びしびし注文 つけてください。 」

「 お〜〜らい♪    うふふ ステキなクラスになりそう〜〜 」

マダムがもうウキウキしている。

 

「 フランソワーズ〜〜 ねえねえねえ〜〜〜

 彼・・ すてき!!!  従兄って? 」

仲良しのみちよが つんつん・・・と突ついてきた。

「 え?  あ〜 もうちょっと遠い親戚なんだけど ・・・ 」

「 ふう〜〜ん  ねえねえねえ〜〜〜〜 彼って 」

「 あのね 熱愛してる相思相愛の彼女、いるから。 」

「 え〜〜〜〜  がっかりィ〜 」

「 ふふふ・・・ ピアノはね、最高よ 」

「 そうなの??  なんでも弾いてくれる? 」

「 ウン。 ・・・ あ〜〜 ア二ソン とかは無理かもね 」

「 きゃはは 〜〜 」

 

「 はい 皆さん 遅れてごめんなさいね。 

 クラス 始めます。 その前に 今日のピアニスト、ヘル・アルベルト。

 素晴らしい音に相応しい踊りを ね! 」

 

    ザ −−−  ダンサー達は 整然とバーについた。

 

「 はい それでは 〜〜  二番から。  ドウミ ドウミ グラ〜ン 」

 

  ♪♪ 〜〜〜〜 ♪♪♪ 〜〜〜〜

 

柔らかいが正確な音が流れはじめ 朝のレッスンが始まった。

 

      へえ ・・・・?

      こんな 優しい音 弾くんだ?

 

      お〜〜っとよそ見してると バレちゃうわね〜〜

 

フランソワーズは どうしても首を伸ばしてピアノの方を見てしまう。

      

      ふうん ・・・

      あの鏡の前のしなやかなのが プリマか・・?

      プリンシパルは  アイツ か  アッチ か

 

      ! おいおいおい ウチのお嬢〜〜

      どこ見てるんだ〜〜 集中しろよ

 

アルベルトは その必要もないのに < 妹 > の動きを確認してしまう。

 

フランソワーズにとっても アルベルトにとっても

大変〜〜〜〜 気の揉める?時間となった。

 

「 ん〜〜〜  ああ ごめんなさい ちょっと 」

マダムは手を上げ クラスを止めた。

「 あのねぇ  三拍子なのよ? わかってる〜 」

「 ・・・ 

「 1 ― 2 ― 3 で 2が上がるの。 

 ブン ちゃっちゃ 〜 じゃないのよ。

 盆踊り、踊るんじゃないからねっ

 ねえ ワルツで華麗に弾いていただける? 」

「 ウィ マダム〜〜 」

 

   ♪♪♪  ♪♪♪ 〜〜〜〜

 

手袋の指が流麗なワルツを奏でる。

 

「 ふんふ〜んふん♪  ああ いいわねえ〜〜〜 

 ほら 皆〜〜 好きなヒトと雲の上で踊ってごらん? 

 ああ ステキ♪  ダンケシェーン ・・・ 」

 

こんな具合に 音に拘りまくったクラスとなり

ラストのグラン・フェッテ ( 男子は セゴン・タ―ン ) まで

三拍子となり ・・・ ダンサー達は苦戦していた・・・

 

「 まあ〜〜 ありがとう!!!  

 うふふ〜〜〜 久々に生演奏を堪能できたわ! 

 ヘル・アルベルト〜〜 すばらしい 

クラスの最後に マダムは大絶賛 ―

 

    ちゅ。  最高の御礼はほっぺに ベーゼ(^^

 

「 あ いや ・・・ 」

珍しくアルベルトが どぎまぎしていた。

 

      うっふっふ〜〜〜〜

      見いちゃった(^^♪ 

 

      これで当分 わたしの勝ちね〜〜

 

フランソワーズは 一人に〜〜んまりした。

 

 

  ピンポーン ・・・  

 

午後のお茶の時間になるころ 004は帰宅した。

 「 おか〜えりなさ〜〜〜い  お疲れ様 〜〜 

「 ・・・ああ  ・・・ ただいま 

銀髪のピアニストは 本当にかなり疲れた顔で玄関に立った。

「 ホントにありがとう!  ステキなクラスだったわよ〜 」

「 ああ ・・ うん 

「 あのね 商店街の ケーキ屋 さんでチョコ・タルト 買ってきたわ

 好きでしょ アルベルト? 」

「 ああ ・・・うん 」

「 あら それとも トラ屋の羊羹 がいい?

 この前 コズミ先生から一棹 頂いたのがまだあるわ 

「 ああ ・・・ うん 」

「  ? どうしたの? すご〜〜く 疲れてる? 」

「 すご〜く疲れてる!

 お前さんのトコのあの超絶元気なバアさんからの依頼から

 逃げるのに必死だったんだ !  」

「 ?? 依頼?  ・・・ ああ 仕事の? 」

「 そうだ!   俺は バレエ・ピアニスト じゃね〜んだ 」

「 ・・・ あら イヤ? 」

「 い ・・・イヤじゃ ない。 そうじゃないが。

 今は クラシックの演奏家としての道を、だな 」

「 ええ わかってるわ。 頑張って〜〜 応援してるから。

 だからね  弾いてくれるでしょう? 」

 

   に〜〜っこり☆  天使の笑みが彼を襲う。

 

「 ・・・ お前な〜〜  ああ 確かにお前さんは

 あの元気バアさんの弟子だ ・・・ ! 

「 メルシ〜〜  まだまだ下っ端ですけどぉ♪

 まあ それでまた弾いてくれるの?? 朝のクラス〜〜  」

「 オフで来日した時に、って〜条件を必死でつけた ・・・ 」

「 そう?  あ じゃあまた遊びに来てね〜〜

 お部屋 ちゃんと掃除しておいたでしょ? 」

「 ・・・ お前な〜〜 そういう問題じゃ  ・・・ 」

「 うふふ  マダムのお気に入りになれたなんて最高よ?

 あの方は バレエ界やクラシックの音楽界で とても顔が広いの。

 ええ 世界的に ね。  二ホンよか海外のヒトがよく知ってるわ 」

「 ・・・ らしい な 

「 貴方のお仕事、ますますご繁盛、よ きっと 」

「 ―  俺の休暇は ・・・ 」

「 別に必要ないんじゃない?  サイボーグでしょ 004? 

 睡眠も休息も原則、ほとんど必要なし じゃなかった? 」

 

    に〜〜〜っこり☆  悪魔の笑みが彼を襲う。

 

「 004が弾いてるんじゃねえ。

 俺が アルベルト・ハインリヒ が弾いているんだ! 」

「 あ〜ら 持てる能力を最大限に活用し活動する。

 全身全霊をこめて ―  弾く のでしょう? 

 それが 芸術を志す者の使命だ ― いつもそう言ってるわよね 

「 ― それは 」

「 ええ ちゃ〜んとわかってるわ〜〜〜

 ステキなピアニストさん♪ 本国でのご活躍を祈ってます。

 そして 休暇には また弾いてくれるのでしょう? 」

 

    に〜〜〜っこり☆  天使の笑みが彼を包む。

 

 

     ・・・ ! ・・・・ しまった ・・・

     いつだって最強は003 って鉄則、

     すっかり忘れた 〜〜〜〜

 

     ・・・ ジョーのヤツ、すげ〜な

     コイツのカレシ、やれるのって

     ― やっぱ ヤツは 009 なんだ ・・・

 

 

「 はあ 〜〜〜〜〜〜 」

アルベルトは ふか〜〜〜〜いため息を吐いた。

「 ・・・ 珈琲 淹れてくれ 

「 はあい♪ お砂糖とミルクた〜〜っぷり にするわ。

 疲れなんかすぐに吹っ飛ぶから 」 

「 ・・・ ああ ・・・ ( もう なんでも いい ) 」

サイボーグ004は ぺたん ・・と リビングのソファに沈みこんだ。

 

 

この一件が端緒となり かのマダムからは何回か仕事の依頼があった。

弦楽四重奏とピアノでの『 ジゼル 』 などは彼自身も

かなり気に入った仕事だった。

( 例によってかなりギリギリの依頼だったので ・・・

 フランソワーズ曰く の サイボーグのそこぢから を駆使することに

 なったのだが ・・・・ )

 

      ふうん ・・・・

      ずっとソロ・ピアニストの道を走ってきたが

 

      伴奏 とか 合奏 も いいもんだ な 

 

      俺の音と ダンサーたちが

      ソロとは違う世界を 造ってゆく 

 

      ・・・ ふうん ・・・・

 

強引な依頼に負けて 少々変わった仕事をこなしたことは

彼のアーティストとしての活動に 有力なコヤシ となっていった。

  まあ ご本人にとってはとんだ災難?かもしれないが、

バレエ団の主宰者で芸術監督でもあるマダムに 大層気に入られ ・・・

以来 彼のコンサートにはたとえ故郷であっても マダムの名前で

気の利いた花束が届くようになっている。

これは地元でも楽団でも 有名な事実である。

 

芸術家にとって有力なパトロンを持つことは 実力の顕れでもあるのだ。

 

 

   そんな経緯がありますので ―  

 

 

「 ・・・ あの御仁の依頼を  断われる わけね〜んだ ・・

 それを わかってて・・・ フランソワーズ〜〜〜〜ぅ 」

 

      はあ 〜〜〜〜  

 

深いため息 で 彼は温めていた < 小さな楽しみ > を想う。

 

冷静沈着 ― 戦闘時には司令塔として最適な判断を下す。

そんな人物なのであるが offには密かな楽しみを期待していた。

 

まず 楽譜屋 や 古本屋 巡り。 

紙媒体をこよなく好む彼にとってトウキョウのあの古本屋街は 夢と憧れの街。

その街を心行くまで 気ままに逍遥してみたい。

気難しそうな老店主を 言葉を交わすのも楽しみだ。

そして 羊羹探訪。  トラ屋 という名の老舗には是非 一度

脚を運びたいし、 コズミ博士から聞いた和菓子職人の卓越した技も

鑑賞し ― できれば賞味したい。

芸術品を賞される繊細な細工を鑑賞し できれば味わってみたいのだ。

そのために 北陸地方に足を伸ばすことも予定にいれていた。

 

   そんな 細やかだがとても大切な < 小さな楽しみ >

 

それは −  もうすぐ手の届かない所に行ってしまう かもしれないのだ。

 

「 それに コンテのリズム だと??

 知るか〜〜〜〜 俺はクラシックのピアニストなんだ〜〜 

 これ以上 なにをしろ と ・・・ 」

 

 ずりりり ・・・ 床に膝から崩れおちる ― 直前に!

 

             あ。

 

あの懐かしい?顔が  ―  生真面目で緻密で冷静沈着な顔が

ぽん、 と 脳裏に浮かんだ。

 

「 そうだ!!!  アイツがいるじゃね〜〜か〜〜〜〜

 ふっふっふ〜〜〜  こうなりゃ一蓮托生だあ〜〜〜〜  」

 

      にまあ〜〜〜。  

 

004はかなりヒトのわる〜い表情で唇の片端を捩じ上げ 

ほくそ笑んだ。

 

  ・・・ 短期契約で就業したピアニスト氏は

きっちりと仕事をこなし ― 大絶賛を受けた。

その後   数々の引き留め工作? を蹴散らし 

彼は彼自身の <小さな楽しみ> を追及しに ・・・ 消えた とか。

 

 

 さて。

月が代わり 花の便りが方々から届くようになるころ ―

 

「 はいは〜〜い 今 でますぅ 〜〜〜 」

 

   パタパタパタ −−− 

 

フランソワーズはリビングに駆けこみ 珍しく鳴った固定電話を取った。

 

「 アロー?  あら アルベルト 〜 」

「 ・・・・  」 

「 元気ィ〜〜 ?  電話なんて珍しいわね〜〜〜 」

「 ・・・・・ 」

「 え??  皆の部屋? ええ 勿論掃除はキチンとしてるし

 空気の入れ替え してるわよ? 」

「 ・・・  ・・・・ 」

「 え? 誰がくるの??    誰でも歓迎だけど? 」

「 ・・・ ・・・ .」

「 まあ そうなの??  久し振りねえ〜〜〜

 ええ お仕事でしょう? いつも超〜〜多忙ですものねえ・・・

 え !? そのあと で ?   嬉しいわ! 」

「 ・・・ ・・・・ 」

「 わ〜〜〜 そうなの? メルシ〜〜〜〜

 早速マダムに話をしておくわね。 」

「 ・・・ ・・・・ 

「 そうよねえ〜〜 彼ってば適任よねえ〜〜〜  

 うん うん こっちはいつだってオッケ〜よ?

 ウチでゆっくりして行って って伝えてね 」

「 ・・・ ・・・・ 」

「 は〜い じゃあね〜〜  

 あ また 弾きにきてくれるでしょう?  

 マダムに言っておくからね!  」

「 ・・・ ・・・ 」

「 メルシ〜〜  チャオ〜〜 」

 

     カタン。   彼女は受話器を置いた。

 

「 ねえ〜〜 ジョー〜〜 お願いがあるの〜〜 」

彼女は 二階に向かって声を上げた。

「 なんだ〜〜い 」

 

     ダダダダ  −−− すぐに茶髪の彼が階段を駆け下りてきた。

 

「 あのね あのね。 来週 ピュンマが来るんですって。

 ジョー 部屋、隣でしょう?  空気を通しておいてくれる 」

「 あ いいよ〜〜  久し振りだねえ 

「 そうよねえ  彼のトコ、やっぱり遠いし ・・・

 いつも超〜〜 お忙し だし 」

「 彼ってさ 政府の仕事、やってるだろ? 」

「 通訳兼 ってカンジね。 日本語で政治的な交渉とか

 大きな商談を決められるヒトって 少ないもの 」

「 だよねえ 〜〜 少しはウチでゆっくりできるといいね 」

「 ね!  あ ピュンマの好きなバナナ・プディング 作るわ 」

「 あ あれ ぼくも好き(^^♪ 

 ねえ ねえ バナナ・シフォン・ケーキ もいいかなあ〜 

 あれ 食べたいなあ〜〜 」

「 オッケ〜〜  あ ついでに彼のお部屋の掃除も頼める? 」

「 うん いいよ〜〜 」

「 メルシ ジョー〜〜 」

 

 ― 彼女は彼の 胃袋 をしっかり掴んでいて 完全に支配下に置いていた。

・・・ もちろん 彼は全く気づいていない ・・・

 

果たして 次の週末に懐かしい顔がギルモア邸に < 帰って > きた。

 

「 きゃ〜〜〜 お帰りなさ〜〜い ピュンマ〜〜〜 」

「 ただいま〜〜  あは は・・・ 」

彼も < やんちゃな妹 > に抱き付かれキスの雨に打たれている。

「 ピュンマ〜〜 久し振り!  元気そうだね 

「 ジョー〜〜 ああ 本当に・・・

 忙しくてさあ  でも どうしても どうしても ここで   ただいま   って

 言いたくて さ ・・・ 」

「 さあさ お茶にするわよ〜〜 」

「 あ フラン〜〜  あのう  僕、昼飯 食べ損ねてて・・・ 」

「 え!?  まあ〜〜〜 それじゃさっそくお昼ご飯 つくるわ! 」

「 ありがとう〜〜 あの さ ・・・

 できれば   いつものウチの昼ごはん   がいいなあ 」

「 あらあ それでいいの? ロースト・ビーフ あるけど ・・・ 」

「 う〜ん  いつものごはん 頼める? 」

「 わかったわ〜   あ お部屋 ちゃんと空気入れ替えてるのよ

 荷物 置いてきて? 」

「 ありがとう〜〜  じゃ ちょっと ・・・ 」

彼は 大きなスーツ・ケースと アタッシュ・ケースを持ち上げ

二階へと上っていった。

 

「 ジョー 手伝ってね〜〜 大急ぎ・お昼ごはん よ! 」

「 ・・・ ぼくも一緒に食べて いいかなあ 」

「 いいけど ・・・ 大丈夫? 」

「 へ〜き へ〜き♪ きみの御飯なら何回でも食べられちゃうさ 」

「 うふふ〜〜  じゃ 大急ぎ〜〜 」

 

   パタパタパタ  二人はキッチンに駆けて行った。

 

 

「 さあ どうぞ 召しあがれ〜 」

満面の笑みで この邸の女主人はテーブルの料理を並べた。

「 あ ・・・ ありがとう  」

遠来の友? は 一瞬怪訝な顔をしたがすぐに にっこり。

「 美味しそうだね〜〜〜  フランスのランチだね  

「 ね〜〜 フランのオムレツって超〜〜オイシイよ〜〜

 ぼくも食べるよ 」

隣では ジョーがもうでれでれである。

「 そ  そうだね ・・・  あ あのさ。

 ウチの昼ごはん って 和風 じゃなかったっけ??

 いつか来た時 ・・・ ゴハンに味噌汁、鯵の干物と卵焼き 

 だったかなあ   あ あと 浅漬けも  」

「 あ〜〜 そうだったっけ?

 最近 ウチの定番はね 〜〜〜 これさ♪ 」

二人の目の前には ― 

 

 とろとろのオムレツ と ハムとチーズをさっとトマト味で炒めたもの、

 ルッコラとレタスのサラダ (レモン味)  そして ぱりぱり・バゲット。

 

「 は〜い 甘い熱々オ・レ どうぞ〜〜 」

「 あ・・・ ありがとう 〜〜 美味しそう だなあ 〜〜〜 」

ピュンマは にこにこ・・・フォークを手に取った けど。

 

    ・・・ 和食 食べたかったんだ ・・・

    このウチの定番だったじゃんか ・・・

 

「 ピュンマ〜〜 じゃ 一緒に < イタダキマス > しようよ〜 」

「 あ   そ  そうだね〜〜 」

 

     いただきま〜す    8番さんと9番さんは声を合わせた。

 

「 ・・・ん〜〜〜〜ま〜〜〜〜〜  フラン〜〜 最高〜〜〜 

 ね! ピュンマ〜〜 

「 あ  ああ そうだね   美味しいなあ 

 フラン、 また料理の腕を上げたね〜〜〜 

 

       あ〜あ  ジョーのヤツ・・・

       すっかり尻に敷かれてやんの

 

       ふうん 胃袋を攻めるって最高の作戦かもなあ

 

ピュンマはちょいと複雑な気分で 茶髪ボーイの笑顔をチラ見していた。

 

   ― さて。   そんな彼にも 爆弾宣言 が待っているのだが 

 

          まだ 彼は なにも知らない 

  平和な笑顔で ゴハンを食べていられるのは ― 今だけ かもしれない?

 

 

Last updated : 03.14.2023.                 index      /     next

 

************   途中ですが

当サイトでは アルベルトは故郷でピアニストとして

活躍しているのです。

システムの具合で もしかしたらもう更新できないかも・・・★