『 音 ― (1) ― 』
♪♪ ♪ 〜〜〜〜 ♪♪ 〜〜〜
きっちりと整頓された部屋に 低く口笛のメロディが流れている。
時折 ハナウタ まで混じっているのは ― 驚天動地 なことで・・・
同居人がいたなら 何事か?? と 駆け寄ってくるかもしれない。
ふんふん ふんふんふん ふ〜〜〜ん♪
アルベルトはすこし逡巡していたが
クローゼットから革ジャンを取りだしてきた。
「 ・・・ ふん あっちはもう春 か?
まあ厚手のダウンはいらんな コレでいいか ・・・
ああ 荷物が少なくて助かる 」
ぽ〜〜ん ・・・ 弛めに詰めたスーツ・ケースに
彼は替えの革手袋を一組 放り込んだ。
「 ふん ・・・ まずはシブヤとギンザだな
俺にはやはり紙の楽譜がいい ― 買いこむぞ。
そうだ あの古本屋街も歩いてみるか ・・・ ずっと興味があったんだ
お〜〜っと 例のジャガイモをリクエストしておくか 」
サイド・ボードの上に置いたスマホに手を伸ばした 途端に
ヴヴヴヴヴ −−−− ヴヴヴヴ 〜〜〜〜
「 ? なんだ? メールか? 珍しいな ・・・ 誰だ ・・・
! なんでメールなんだ フランソワーズ !! 」
唇をますますへの字にして メール画面を開く。
「 なんでわざわざ・・・ ったく ・・・ はあ?? 」
「 はあ〜い アルベルト〜〜 お仕事ですよ♪
こっちにいる間 ウチの朝クラス と ジュニアAクラス の
ピアノ よろしく☆ マダムが待ってるわって♪
代理で 短期雇用契約書にサインしておいたからね〜〜 ♪
あと ・・・ コンテ・クラスで リズム担当できる人 しらない? 」
メール画面には賑やかにハートやらVサインやら☆やらが 飛び交っている。
「 はあ??? 俺は休暇なんだ! 仕事は取らんぞ ! 」
彼は憤然として画面を閉じようとしたが 後半のコトバに目が行った。
「 !! こ こ 雇用契約書 だとぉ??? ・・・サインした??
・・・ ああ あのマダムの笑顔が ・・・ 」」
はああ〜〜〜〜 ・・・
故郷でも名をあげつつある人気ピアニスト氏は アタマを抱え
椅子に座り込んだ。
「 冗談じゃないぜ 朝と夕方に弾くってことは
昼間はほぼ拘束じゃね〜か ! ったく〜〜〜 」
きっぱり断ればいいことだが ― そんなコトはあの金髪フランス娘には
まったく通じないことを 彼は今までの経験でイヤといほど知らされていた。
「 ― でも 弾いてくれるでしょう? 」
論理的に そして 丁寧に解りやすく時間を掛けて説明しても
最後は いつもこの言葉と笑顔で全てをひっくり返されてしまうのだ。
「 ・・・ ったく〜〜〜〜 」
かつて 急な代理ピアニストとして フランソワーズの所属してる
バレエ・カンパニーでレッスン・ピアニストを務めたことがあった。
― あの時も 突然携帯が鳴ったのだ。
所要で来日し 朝、バレエ団のレッスンにゆく彼女を送って
共に都心に出た。
彼自身は所属する楽団がらみの交渉事もなんとか成立し
やっとオフになった朝なので アルベルトはウキウキしていた。
「 ふうん ・・・ なかなか緑が多いな この地域は。
ああ ここがあの有名な ― ほう・・・? 」
彼女を送り届けた後 さて 楽譜屋巡りをするか・・・と
路線図を眺めていたときだった。
ヴヴヴヴヴ −−−− !
「 ? なんだ? ・・・ フランソワーズ?
忘れ物でもしたのか 」
かなりの仏頂面でメール画面を開けば
アルベルト!!! すぐ 来て! 3
「 !? な なんだ ?? 緊急なら脳波通信が届く距離だぞ?
いや のっぴきならない事情でもあるのか? 」
カッ !! カツカツカツ −−−!
彼は踵を返し ニンゲン的に見えるぎりぎり限界の速度で
来た道を 引き返した ― 齢の離れた妹 のために ・・・ !
「 あ〜〜〜 きた〜〜〜 ねえ はやく はやく〜〜〜 」
「 ! フランソワーズ !! どうし ・・・ た ・・・・? 」
果たして彼の < 妹 > は ニットを羽織りバレエ団の玄関で
ぴんぴん 跳びつつ・・ 待っていた。
「 ほらほら〜〜 もう時間なの! 」
「 ??? 」
「 だから〜〜 弾いて。 朝クラスのピアニストさんがね
急病で来れなくて。 代わりのヒト、いないのよ〜〜 」
「 ・・・ は? 」
「 こっちよ〜〜 あ マダム〜〜〜 来ましたァ〜〜 」
「 ?? な な なんなんだ〜〜〜 」
< 妹 > に拉致され引っ張って行かれたのは ― 広いスタジオ。
床で潰れカエルみたいに寝そべったり 信じられない角度で脚を上げたり
・・・ しているダンサー達が 言葉はないがあつ〜〜い視線を向けてきた。
「 あら。 フランソワーズ。 その方が従兄さん? 」
「 マダム〜 え あ はい! アルベルト・ハインリヒ です!
ね 弾いてよ、朝のクラス。 いいわよね? わかるわよね?
ほら 座って 座って〜〜〜 」
「 ・・・・ おい 〜〜〜 」
「 初めまして ヘル・アルベルト? 」
なんだか貫録のある初老の婦人が にこやかに挨拶をしてきた。
ん・・・・?
ああ このバアさんが このカンパニーの主宰者か
「 あ い いや ( ほう なかなか堂に入った発音じゃねえか ) 」
「 ごめんなさい 私 ドイツ語はこれしかできないのよ。
イングリッシュ or フレンチ?
」
「 ― 日本語で結構ですよ マダム 」
「 あら そう? 日本語 お上手ね 」
「 ・・・ あ〜〜 フランソワーズの練習に付き合ってますから
だいたい流れは知ってますが。 びしびし注文 つけてください。 」
「 お〜〜らい♪ うふふ ステキなクラスになりそう〜〜 」
マダムがもうウキウキしている。
「 フランソワーズ〜〜 ねえねえねえ〜〜〜
彼・・ すてき!!! 従兄って? 」
仲良しのみちよが つんつん・・・と突ついてきた。
「 え? あ〜 もうちょっと遠い親戚なんだけど ・・・ 」
「 ふう〜〜ん ねえねえねえ〜〜〜〜 彼って 」
「 あのね 熱愛してる相思相愛の彼女、いるから。 」
「 え〜〜〜〜 がっかりィ〜 」
「 ふふふ・・・ ピアノはね、最高よ 」
「 そうなの?? なんでも弾いてくれる? 」
「 ウン。 ・・・ あ〜〜 ア二ソン とかは無理かもね 」
「 きゃはは 〜〜 」
「 はい 皆さん 遅れてごめんなさいね。
クラス 始めます。 その前に 今日のピアニスト、ヘル・アルベルト。
素晴らしい音に相応しい踊りを ね! 」
ザ −−− ダンサー達は 整然とバーについた。
「 はい それでは 〜〜 二番から。 ドウミ ドウミ グラ〜ン 」
♪♪ 〜〜〜〜 ♪♪♪ 〜〜〜〜
柔らかいが正確な音が流れはじめ 朝のレッスンが始まった。
へえ ・・・・?
こんな 優しい音 弾くんだ?
お〜〜っとよそ見してると バレちゃうわね〜〜
フランソワーズは どうしても首を伸ばしてピアノの方を見てしまう。
ふうん ・・・
あの鏡の前のしなやかなのが プリマか・・?
プリンシパルは アイツ か アッチ か
! おいおいおい ウチのお嬢〜〜
どこ見てるんだ〜〜 集中しろよ
アルベルトは その必要もないのに < 妹 > の動きを確認してしまう。
フランソワーズにとっても アルベルトにとっても
大変〜〜〜〜 気の揉める?時間となった。
「 ん〜〜〜 ああ ごめんなさい ちょっと 」
マダムは手を上げ クラスを止めた。
「 あのねぇ 三拍子なのよ? わかってる〜 」
「 ・・・ 」
「 1 ― 2 ― 3 で 2が上がるの。
ブン ちゃっちゃ 〜 じゃないのよ。
盆踊り、踊るんじゃないからねっ
ねえ ワルツで華麗に弾いていただける? 」
「 ウィ マダム〜〜 」
♪♪♪ ♪♪♪ 〜〜〜〜
手袋の指が流麗なワルツを奏でる。
「 ふんふ〜んふん♪ ああ いいわねえ〜〜〜
ほら 皆〜〜 好きなヒトと雲の上で踊ってごらん?
ああ ステキ♪ ダンケシェーン ・・・ 」
こんな具合に 音に拘りまくったクラスとなり
ラストのグラン・フェッテ ( 男子は セゴン・タ―ン ) まで
三拍子となり ・・・ ダンサー達は苦戦していた・・・
「 まあ〜〜 ありがとう!!!
うふふ〜〜〜 久々に生演奏を堪能できたわ!
ヘル・アルベルト〜〜 すばらしい 」
クラスの最後に マダムは大絶賛 ―
ちゅ。 最高の御礼はほっぺに ベーゼ(^^♪
「 あ いや ・・・ 」
珍しくアルベルトが どぎまぎしていた。
うっふっふ〜〜〜〜
見いちゃった(^^♪
これで当分 わたしの勝ちね〜〜
フランソワーズは 一人に〜〜んまりした。
ピンポーン ・・・
午後のお茶の時間になるころ 004は帰宅した。
「 おか〜えりなさ〜〜〜い お疲れ様 〜〜 」
「 ・・・ああ ・・・ ただいま 」
銀髪のピアニストは 本当にかなり疲れた顔で玄関に立った。
「 ホントにありがとう! ステキなクラスだったわよ〜 」
「 ああ ・・ うん 」
「 あのね 商店街の ケーキ屋 さんでチョコ・タルト 買ってきたわ
好きでしょ アルベルト? 」
「 ああ ・・・うん 」
「 あら それとも トラ屋の羊羹 がいい?
この前 コズミ先生から一棹 頂いたのがまだあるわ 」
「 ああ ・・・ うん 」
「 ? どうしたの? すご〜〜く 疲れてる? 」
「 すご〜く疲れてる!
お前さんのトコのあの超絶元気なバアさんからの依頼から
逃げるのに必死だったんだ ! 」
「 ?? 依頼? ・・・ ああ 仕事の? 」
「 そうだ! 俺は バレエ・ピアニスト じゃね〜んだ 」
「 ・・・ あら イヤ? 」
「 い ・・・イヤじゃ ない。 そうじゃないが。
今は クラシックの演奏家としての道を、だな 」
「 ええ わかってるわ。 頑張って〜〜 応援してるから。
だからね 弾いてくれるでしょう? 」
に〜〜っこり☆ 天使の笑みが彼を襲う。
「 ・・・ お前な〜〜 ああ 確かにお前さんは
あの元気バアさんの弟子だ ・・・ ! 」
「 メルシ〜〜 まだまだ下っ端ですけどぉ♪
まあ それでまた弾いてくれるの?? 朝のクラス〜〜 」
「 オフで来日した時に、って〜条件を必死でつけた ・・・ 」
「 そう? あ じゃあまた遊びに来てね〜〜
お部屋 ちゃんと掃除しておいたでしょ? 」
「 ・・・ お前な〜〜 そういう問題じゃ ・・・ 」
「 うふふ マダムのお気に入りになれたなんて最高よ?
あの方は バレエ界やクラシックの音楽界で とても顔が広いの。
ええ 世界的に ね。 二ホンよか海外のヒトがよく知ってるわ 」
「 ・・・ らしい な 」
「 貴方のお仕事、ますますご繁盛、よ きっと 」
「 ― 俺の休暇は ・・・ 」
「 別に必要ないんじゃない? サイボーグでしょ 004?
睡眠も休息も原則、ほとんど必要なし じゃなかった? 」
に〜〜〜っこり☆ 悪魔の笑みが彼を襲う。
「 004が弾いてるんじゃねえ。
俺が アルベルト・ハインリヒ が弾いているんだ! 」
「 あ〜ら 持てる能力を最大限に活用し活動する。
全身全霊をこめて ― 弾く のでしょう?
それが 芸術を志す者の使命だ ― いつもそう言ってるわよね 」
「 ― それは 」
「 ええ ちゃ〜んとわかってるわ〜〜〜
ステキなピアニストさん♪ 本国でのご活躍を祈ってます。
そして 休暇には また弾いてくれるのでしょう? 」
に〜〜〜っこり☆ 天使の笑みが彼を包む。
・・・ ! ・・・・ しまった ・・・
いつだって最強は003 って鉄則、
すっかり忘れた 〜〜〜〜
・・・ ジョーのヤツ、すげ〜な
コイツのカレシ、やれるのって
― やっぱ ヤツは 009 なんだ ・・・
「 はあ 〜〜〜〜〜〜 」
アルベルトは ふか〜〜〜〜いため息を吐いた。
「 ・・・ 珈琲 淹れてくれ 」
「 はあい♪ お砂糖とミルクた〜〜っぷり にするわ。
疲れなんかすぐに吹っ飛ぶから 」
「 ・・・ ああ ・・・ ( もう なんでも いい ) 」
サイボーグ004は ぺたん ・・と リビングのソファに沈みこんだ。
この一件が端緒となり かのマダムからは何回か仕事の依頼があった。
弦楽四重奏とピアノでの『 ジゼル 』 などは彼自身も
かなり気に入った仕事だった。
( 例によってかなりギリギリの依頼だったので ・・・
フランソワーズ曰く の サイボーグのそこぢから を駆使することに
なったのだが ・・・・ )
ふうん ・・・・
ずっとソロ・ピアニストの道を走ってきたが
伴奏 とか 合奏 も いいもんだ な
俺の音と ダンサーたちが
ソロとは違う世界を 造ってゆく
・・・ ふうん ・・・・
強引な依頼に負けて 少々変わった仕事をこなしたことは
彼のアーティストとしての活動に 有力なコヤシ となっていった。
まあ ご本人にとってはとんだ災難?かもしれないが、
バレエ団の主宰者で芸術監督でもあるマダムに 大層気に入られ ・・・
以来 彼のコンサートにはたとえ故郷であっても マダムの名前で
気の利いた花束が届くようになっている。
これは地元でも楽団でも 有名な事実である。
芸術家にとって有力なパトロンを持つことは 実力の顕れでもあるのだ。
そんな経緯がありますので ―
「 ・・・ あの御仁の依頼を 断われる わけね〜んだ ・・
それを わかってて・・・ フランソワーズ〜〜〜〜ぅ 」
はあ 〜〜〜〜
深いため息 で 彼は温めていた < 小さな楽しみ > を想う。
冷静沈着 ― 戦闘時には司令塔として最適な判断を下す。
そんな人物なのであるが offには密かな楽しみを期待していた。
まず 楽譜屋 や 古本屋 巡り。
紙媒体をこよなく好む彼にとってトウキョウのあの古本屋街は 夢と憧れの街。
その街を心行くまで 気ままに逍遥してみたい。
気難しそうな老店主を 言葉を交わすのも楽しみだ。
そして 羊羹探訪。 トラ屋 という名の老舗には是非 一度
脚を運びたいし、 コズミ博士から聞いた和菓子職人の卓越した技も
鑑賞し ― できれば賞味したい。
芸術品を賞される繊細な細工を鑑賞し できれば味わってみたいのだ。
そのために 北陸地方に足を伸ばすことも予定にいれていた。
そんな 細やかだがとても大切な < 小さな楽しみ >
それは − もうすぐ手の届かない所に行ってしまう かもしれないのだ。
「 それに コンテのリズム だと??
知るか〜〜〜〜 俺はクラシックのピアニストなんだ〜〜
これ以上 なにをしろ と ・・・ 」
ずりりり ・・・ 床に膝から崩れおちる ― 直前に!
あ。
あの懐かしい?顔が ― 生真面目で緻密で冷静沈着な顔が
ぽん、 と 脳裏に浮かんだ。
「 そうだ!!! アイツがいるじゃね〜〜か〜〜〜〜
ふっふっふ〜〜〜 こうなりゃ一蓮托生だあ〜〜〜〜 」
にまあ〜〜〜。
004はかなりヒトのわる〜い表情で唇の片端を捩じ上げ
ほくそ笑んだ。
・・・ 短期契約で就業したピアニスト氏は
きっちりと仕事をこなし ― 大絶賛を受けた。
その後 数々の引き留め工作? を蹴散らし
彼は彼自身の <小さな楽しみ> を追及しに ・・・ 消えた とか。
さて。
月が代わり 花の便りが方々から届くようになるころ ―
「 はいは〜〜い 今 でますぅ 〜〜〜 」
パタパタパタ −−−
フランソワーズはリビングに駆けこみ 珍しく鳴った固定電話を取った。
「 アロー? あら アルベルト 〜 」
「 ・・・・ 」
「 元気ィ〜〜 ? 電話なんて珍しいわね〜〜〜 」
「 ・・・・・ 」
「 え?? 皆の部屋? ええ 勿論掃除はキチンとしてるし
空気の入れ替え してるわよ? 」
「 ・・・ ・・・・ 」
「 え? 誰がくるの?? 誰でも歓迎だけど? 」
「 ・・・ ・・・ .」
「 まあ そうなの?? 久し振りねえ〜〜〜
ええ お仕事でしょう? いつも超〜〜多忙ですものねえ・・・
え !? そのあと で ? 嬉しいわ! 」
「 ・・・ ・・・・ 」
「 わ〜〜〜 そうなの? メルシ〜〜〜〜
早速マダムに話をしておくわね。 」
「 ・・・ ・・・・ 」
「 そうよねえ〜〜 彼ってば適任よねえ〜〜〜
うん うん こっちはいつだってオッケ〜よ?
ウチでゆっくりして行って って伝えてね 」
「 ・・・ ・・・・ 」
「 は〜い じゃあね〜〜
あ また 弾きにきてくれるでしょう?
マダムに言っておくからね! 」
「 ・・・ ・・・ 」
「 メルシ〜〜 チャオ〜〜 」
カタン。 彼女は受話器を置いた。
「 ねえ〜〜 ジョー〜〜 お願いがあるの〜〜 」
彼女は 二階に向かって声を上げた。
「 なんだ〜〜い 」
ダダダダ −−− すぐに茶髪の彼が階段を駆け下りてきた。
「 あのね あのね。 来週 ピュンマが来るんですって。
ジョー 部屋、隣でしょう? 空気を通しておいてくれる 」
「 あ いいよ〜〜 久し振りだねえ 」
「 そうよねえ 彼のトコ、やっぱり遠いし ・・・
いつも超〜〜 お忙し だし 」
「 彼ってさ 政府の仕事、やってるだろ? 」
「 通訳兼 ってカンジね。 日本語で政治的な交渉とか
大きな商談を決められるヒトって 少ないもの 」
「 だよねえ 〜〜 少しはウチでゆっくりできるといいね 」
「 ね! あ ピュンマの好きなバナナ・プディング 作るわ 」
「 あ あれ ぼくも好き(^^♪
ねえ ねえ バナナ・シフォン・ケーキ もいいかなあ〜
あれ 食べたいなあ〜〜 」
「 オッケ〜〜 あ ついでに彼のお部屋の掃除も頼める? 」
「 うん いいよ〜〜 」
「 メルシ ジョー〜〜 」
― 彼女は彼の 胃袋 をしっかり掴んでいて 完全に支配下に置いていた。
・・・ もちろん 彼は全く気づいていない ・・・
果たして 次の週末に懐かしい顔がギルモア邸に < 帰って > きた。
「 きゃ〜〜〜 お帰りなさ〜〜い ピュンマ〜〜〜 」
「 ただいま〜〜 あは は・・・ 」
彼も < やんちゃな妹 > に抱き付かれキスの雨に打たれている。
「 ピュンマ〜〜 久し振り! 元気そうだね 」
「 ジョー〜〜 ああ 本当に・・・
忙しくてさあ でも どうしても どうしても ここで ただいま って
言いたくて さ ・・・ 」
「 さあさ お茶にするわよ〜〜 」
「 あ フラン〜〜 あのう 僕、昼飯 食べ損ねてて・・・ 」
「 え!? まあ〜〜〜 それじゃさっそくお昼ご飯 つくるわ! 」
「 ありがとう〜〜 あの さ ・・・
できれば いつものウチの昼ごはん がいいなあ 」
「 あらあ それでいいの? ロースト・ビーフ あるけど ・・・ 」
「 う〜ん いつものごはん 頼める? 」
「 わかったわ〜 あ お部屋 ちゃんと空気入れ替えてるのよ
荷物 置いてきて? 」
「 ありがとう〜〜 じゃ ちょっと ・・・ 」
彼は 大きなスーツ・ケースと アタッシュ・ケースを持ち上げ
二階へと上っていった。
「 ジョー 手伝ってね〜〜 大急ぎ・お昼ごはん よ! 」
「 ・・・ ぼくも一緒に食べて いいかなあ 」
「 いいけど ・・・ 大丈夫? 」
「 へ〜き へ〜き♪ きみの御飯なら何回でも食べられちゃうさ 」
「 うふふ〜〜 じゃ 大急ぎ〜〜 」
パタパタパタ 二人はキッチンに駆けて行った。
「 さあ どうぞ 召しあがれ〜 」
満面の笑みで この邸の女主人はテーブルの料理を並べた。
「 あ ・・・ ありがとう 」
遠来の友? は 一瞬怪訝な顔をしたがすぐに にっこり。
「 美味しそうだね〜〜〜 フランスのランチだね
」
「 ね〜〜 フランのオムレツって超〜〜オイシイよ〜〜
ぼくも食べるよ 」
隣では ジョーがもうでれでれである。
「 そ そうだね ・・・ あ あのさ。
ウチの昼ごはん って 和風 じゃなかったっけ??
いつか来た時 ・・・ ゴハンに味噌汁、鯵の干物と卵焼き
だったかなあ あ あと 浅漬けも 」
「 あ〜〜 そうだったっけ?
最近 ウチの定番はね 〜〜〜 これさ♪ 」
二人の目の前には ―
とろとろのオムレツ と ハムとチーズをさっとトマト味で炒めたもの、
ルッコラとレタスのサラダ (レモン味) そして ぱりぱり・バゲット。
「 は〜い 甘い熱々オ・レ どうぞ〜〜 」
「 あ・・・ ありがとう 〜〜 美味しそう だなあ 〜〜〜 」
ピュンマは にこにこ・・・フォークを手に取った けど。
・・・ 和食 食べたかったんだ ・・・
このウチの定番だったじゃんか ・・・
「 ピュンマ〜〜 じゃ 一緒に < イタダキマス > しようよ〜 」
「 あ そ そうだね〜〜 」
いただきま〜す 8番さんと9番さんは声を合わせた。
「 ・・・ん〜〜〜〜ま〜〜〜〜〜 フラン〜〜 最高〜〜〜
ね! ピュンマ〜〜 」
「 あ ああ そうだね 美味しいなあ
フラン、 また料理の腕を上げたね〜〜〜 」
あ〜あ ジョーのヤツ・・・
すっかり尻に敷かれてやんの
ふうん 胃袋を攻めるって最高の作戦かもなあ
ピュンマはちょいと複雑な気分で 茶髪ボーイの笑顔をチラ見していた。
― さて。 そんな彼にも 爆弾宣言 が待っているのだが
まだ 彼は なにも知らない
平和な笑顔で ゴハンを食べていられるのは ― 今だけ かもしれない?
Last updated : 03.14.2023.
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当サイトでは アルベルトは故郷でピアニストとして
活躍しているのです。
システムの具合で もしかしたらもう更新できないかも・・・★